自覚症状

自覚症状のある奴は、大抵勘違いしていて面倒臭い奴だ。

 

大なり小なり病を患っている人は「自分の事ぐらい自分でわかっとるわい」と医者に掛かった意味がわからないようなスタンスだし、経歴のある派遣社員は「自分のやり方がありますので」と新しい会社のマニュアルから外れたやり方で正社員を困らせる。
イメージだけど。

 

中でも性格の自覚症状が一番タチが悪い。
自分がその性格だと気付いたヤツらは、個性と捉えて胡座を掻く。
大雑把なヤツらは開き直ったかのように机周りを散らかすし、神経質なヤツらは数分程度の遅刻でも怒鳴り散らす。
適度ってものを知らない。
こいつらの何が面倒臭いって、ポジティブワードに変換しやがるのだ。
そして、その変換する癖に至っては自覚症状が無い、多分。
先述した大雑把なヤツは豪快な自分に酔ってるし、神経質なヤツは真面目さが自分の取り柄だと思ってる。

 

そんな事を書いている僕自身も、他人と話す時は「オレ、見栄っ張りだから」とか「オレ、格好付けだから」とか予防線を張って、可愛い自分を守ろうとする。
この盾を使えば、ふとした動作にその片鱗が出た時も「まあ、わかってるんだもんな」と指摘しづらくなるからだ。
陰口で取り上げるにしては今ひとつ盛り上がらなくなるし、面と向かって事実を突き付けるにしても鬼の首を取ったようなマウンティングは出来なくなる。
……なんて勘違いをしてるから余計に面倒臭いんだろうけど。
実際は、自覚症状の無い欠陥がより顕になって滑稽なピエロと化している、はずだ。

 

ただ、その自覚症状から生まれる振り幅は時に武器にもなる。
個性の天丼だ。

 

以前、男性の新卒社員の歓迎会があった。
彼は色黒で髪型も僕が産まれた時のトレンディドラマに出てくる俳優のような老けた見た目だった。
言ってみれば、不動産会社の営業部長だ。
彼は会場に着いた途端、上座下座も意識せずにドカッと腰を降ろした。
肝っ玉が座っているのか不躾なだけかはわからないが、颯爽とジャケットを脱いで腕まくりをする。
皆がヒソヒソ話す声にも我関せずで、左手首に結ばれた鹿のフンのような数珠をアピールする。
ダ……ダサい!
そんな彼に興味を持った隣席の僕は質問を投げ掛ける。
「○○くん、好きなアーティストは?」
「ああ、サザンですね」
サザン?!
サザンが格好良いのはわかっているが、「最近欅坂46の長濱ねるを推してる」なんて話でワーキャーしている4歳上の僕は面食らった。
まさか弟よりも歳下がサザンを聴いているとは。
続けて問いを投げ掛ける。
「○○くん、趣味は?」
「釣り、麻雀、パチンコですね」
三つ挙げた内の三つとも"お父さんの趣味"なんて役が上がるような面子だ。
クラクラした。
彼は敢えておじさんになろうとしているのだろうか?
「なんかおじさん側に寄せてない?」
「寄せてないですけど、おじさんっぽいかもしれませんね。さっきも同期に昭和のイケメンみたいだなって言われて、納得しちゃいました」
……それは褒めてないぞ!
皮肉だ!皮肉!
あまりの乱打にパンチドランカーとなった僕は、フラついた足取りで喫煙所に向かい煙草に火を着けた。
そうすると同じように会場を抜けた統括部長がやってきた。
「お前、あんまり後輩をイジメるなよ」
「イジメてるつもりはないですけど、面白くて話を引き出そうとしちゃいました」
そこで統括部長は衝撃の一言を発する。

 

「あいつ、あれで童貞だぞ」

 

腹がよじれるほど笑った。
あのツラ、あの仕草、あの性格。
子供を二人ぐらい食わせていそうな彼は、育児どころか膣内射精すら知らなかった。

 

この振り幅は素晴らしい。
勘違いした自覚症状が、笑いをより増幅させる。
人伝てとは言え、僕はその瞬間彼のことを好きになった。

 

偉そうには言えないけど、このように勘違いした自分をフリにして、オチを付けられればめちゃくちゃ面白いだろうな。
とても勉強になる出来事だった。
今後はそのように生きられるように心掛けたいと思う。

 

 

 

 

って、心掛けたらまた勘違いしてる自覚症状になるっての。