行きつけのバーが二軒あるのだが、その内の一軒でお世話になっていた店員さんが、来週居なくなってしまう。
故郷の北海道に帰るそうだ。

 

 

経緯の色々も知っているが、そこは割愛する。
何にせよ、親睦を深めた人が、近くから去っていく事実は非常に寂しい。
「年一で関東にも遊びに来るよ」と言ってはいたものの、普段の日常の中で会うことは、今後存在しないのだ。
「さよならだけが人生だ」
と、井伏鱒二が誰かの漢詩を意訳していたが、若僧の僕が悟るには、まだまだ生きてきた年数が足りないらしい。
そう言えば、その店員さんも僕のことを「クソガキだなあ」とよく言っていた。

 

 

そこで過去を振り返り、思い出を書き綴りたい……なんて考えたのだが、これと言った記憶が無い。
と言うのも忘れてしまった訳ではなく、ある意味で生活の一部と化していたからだろう。
時にはバーで音楽やアイドルについての話をしたり、時には居酒屋で酔っ払って叱られたり、時にはカラオケで朝方までケミストリーを歌ったり、他愛もない内容ばかりだ。
二人で朝方まで管を巻くことも多かったし、誕生日にはお祝いをしてくれたこともあった。
撃ち込まれた数多のテキーラショットは、ガンマンであれば百発百中と称されるほど、僕の肝臓に弾痕を残している。
やはりと言うか何と言うか、飲み屋の店員との絡みにアルコールは切っても切り離せないものなんだな、とクスクス笑ってしまった。

 

 

離れる直前に盃を交わせないことが心残りではあるが、北の大地でも懐古談を肴に楽しく飲んでいてほしいものである。
そうそう、先に書いた漢詩のタイトルが『勧酒』だったと言うことに、今更になって気付いた。
さすが、酒と相即不離なだけある。

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